おくり狼の話『山西の民話』
治郎兵衛は私の家の下男でした。ガッチリした大きな骨格で、とても力がつよくて、よく力自慢をしていました。明治の初め頃でしたか、治郎兵衛の伯父が死んでお葬式がありました。
何分、母のさとなので、田舎の習慣通り餅をついて重箱に入れて持って行きました。お葬式の日は折悪く友引の日だったので出棺は12時をすぎてでした。お葬式をすまして送り膳にについて一パイよばれて帰途につきました。伯母さんや家の人達が「もう遅いので明朝帰ったら」としきりに止めてくれるのでしたが、明日からの農作業を思うと、一寸でも早く帰りたいと思って、家人のとめてくれるのを押しきって、帰途につきました。十三夜の月が明るかったので提灯も持たずに、近道の山路を越して帰ることにしました。