出雲街道 宿場名の語源由来

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出雲街道 宿場名の語源由来を四日市観光ボランティアガイドの村田三郎様から頂きましたのでご紹介させていただきます。(上の写真は津山ボランティアガイドの末澤敏夫さんと所有の出雲街道絵地図)

出雲街道 宿場名の語源由来 2023.02.12 村田三郎

1.序
出雲街道は、播磨国姫路(兵庫県姫路市)を始点として、中国山地を横断し、出雲国松江(島根県松江市)に至る街道のことを指す。古代は都(大和)と出雲とを結ぶ最短距離の官道で、国司が中央とを往復する道であった。江戸時代は、参勤交代の道として、津山、勝山、広瀬、松江などの各藩主が利用し、出雲(松江)の藩主・松平侯(越前松平家)が参勤交代で通ったことから「出雲街道」と呼ばれるようになった。姫路から松江までは、53里208km、25か所の宿場があった。出雲街道の特徴というべきは、出雲大社(祭神大国主大神)・美保神社(祭神事代主神、三穂津姫命)を祀る「参詣・信仰の道」であり、また、たたら製鉄製品の全国流通を支えた「鉄の道」でもあった。

2.出雲街道の宿場名

始点―姫路

①飾西(しきさい) 
 飾西(しき・さい)で、飾(しき)は、古代、飾磨(しかま)郡の頭文字。飾磨郡が2つに分国した際、西(にし)の方位側は飾磨西郡となった。飾磨の西(しかま・さい)→(しき・さい)に転訛。
もとの飾磨(しかま)は、音の当て字で、字句の意味は無い。地形語では、(しかま)は、すか(州処・須賀)+ま(接尾語)という説がある。とすれば、すか(州処・須賀)は、砂地状の土地・川の中州・川べり。(すか)地名は全国に多数あり。

②觜崎(はしざき) 
 觜崎(はし・ざき)で、觜(はし)は、口觜(くち・ばし)の觜(はし)で、尖っている・はじ・端の意。崎(ざき・さき)は、細長く突き出しいるところ。浸食地形・崩壊地形の形容。


③千本(せんぼん) 難解語。
 千本(せん・ぼん)は、数(かず)のことで、「ものすごく、たくさん」という意味であろうが、公知情報が見当たらない。唯一、京都の千本通りとの関係がありや・・・

<推考>千本通の名は京都にある。船岡山西麓の葬送地への道に千本の卒塔婆を建てて供養したので、通り名とした。卒塔婆とは、細長い板に、梵字・経文・戒名などを縦書きしたもの。墓石の後ろに立てて、供養の証(あか)しとした。

④三日月(みかづき) 
 三日月(み・か・づき)で、3か月の意。北条時頼(ほうじょうときより)が領国巡視の際、当地に3か月間滞在したことから、(3か月)→(みかづき・三日月)名が発した。時頼は、鎌倉幕府第5代執権(在職1246~1256)。質素堅実で、宗教心にも篤く、善政を布いたことで、名君として評価された。時頼は、諸国を旅して民情視察を行なったという。

⑤佐用(さよう)
 古称、讃容(さよ)。佐与とも書いた。讃用都比売命(さよつひめのみこと)の名に因む。
播磨国風土記「讃容郡(さよのこおり)」の条に書かれている逸話―詳細略。

<推考>さよう(然様)(そう。そのとおり)という語が変化したのでは・・・・。

⑥土居(どい)
 土居(ど・い)で、土(ど)は、土手・盛り土。居(い)は、住居。屋敷を防御のために築いた盛土。

⑦勝間田(かつまだ)
 勝間田(かつ・ま・だ)で、勝(かつ)は、当地を開発した勝部(かつべ)氏の略。間(ま)は、接続詞。田(だ・た)は、土地。勝田(かつた・かつだ)と同意。総じて、勝部氏が開発した土地。
勝部氏は、京都葛野郡太秦を本拠地とする秦氏(はたうじ)の支族とされる。

⑧津山(つやま)   
 津のまわりにある山。山間の中心地。津は、人・物の集散地の意。

⑨坪井(つぼい)
 坪井(つぼ・い)で、坪(つぼ)は、壺の換え字か。湯(温泉)が湧き出ているところ。湯坪(ゆ・つぼ)に転じて、それが、(つぼ・ゆ)→(つぼ・い)に転訛、(い)を井に当て字

⑩久世(くせ)    
 難解語。古語で(くせ)は、湾曲していることを曲(くせ)。また、岩の多い浅瀬や川原を、曲瀬(くせ)というので、川の地形を形容したもの。久世(くせ)は美称。

⑪勝山(かつやま)  
 瑞祥地名。もとは、高田村。明和3年(1766)三浦氏(三河西尾)が高田城を築いて出丸(城の一番外側に造られた城で最前線を守る役目)を 勝山城と名付けたので、城下の高田村の名が勝山に替わった。

⑫美甘(みかも)  
 美甘(み・かも)で、音の当て字。御鴨(みかも)神社(祭神味鋤高彦根神)の名に因む。
鴨(かも)神社の本源地は、京都の賀茂神社(賀茂別雷神社と賀茂御祖神社)の総称の別称。

⑬新庄(しんじょう) 
 新しい庄(園)。庄(園)は、荘園とも書く。貴族・寺社の私有地。

⑭板井原(いたいばら)
 板井原(いた・い・ばら)で、板を敷いた、井(い)は、湧水地。原(ばら)は原野・開墾地。

⑮根雨(ねう)     
 根雨神社(祭神須佐之男命)の名に因む。元明天皇の御代(在位707~715年)に、旱魃が起こり、当社で雨乞いをしたところ、雨が降り、豊作を迎えることが出来たとの逸話からこの雨が根まで潤わせたとして、「根雨」の名が発した。

⑯二部(にぶ)    
 二部(にぶ)は、(郡・郷・里など)もとにあった一つの区域・土地(所領)を分ける際、二分(20%)か または、二分割(50%)したことに因む。

⑰溝口(みぞくち)  
 溝(みぞ・くち)で、溝(みぞ)は、水路。口(くち)は、入口。川から取水する用水路の入口。

⑱米子(よなご)   
 米子(よな・ご)で、米(よな)は、砂地。子(ご・こ)は、場所・土地。

⑲安来(やすき)   
 伝承地名。須佐之男命(すさのうのみこと)が当地を訪れた際、心安らかになったという神話から「安来」が発した。 または、地形語で、(やす)は、沼地、痩せ地、砂洲の意味がある。
砂洲とは、海岸の沖合に、砂や小石が岸と平行に細長く堆積して水面上に現われた地形。

㉕出雲郷(いずもごう) 
 出雲は、旧国名。美しく雲がわき出る空の形容、半島状地形の先端を、いづ(出)くま(隈・奥)と言い、(いずくも→いずも)に転じた。郷は、村(50戸を単位)。古称、(あだかえ)と言った。(あだかえ)の故地に、出雲国の役所が設置されたので、出雲郷が公称となったが、県内数か所では、出雲郷(あだかえ)と言うところがあるという。


終点―松江(まつえ)

以上

<参考文献>
角川日本地名大辞典 兵庫県・岡山県・鳥取県・島根県(角川書店)
日本歴史地名体系  兵庫県・岡山県・鳥取県・島根県(平凡社)
日本地名大百科(小学館)、市町村名語源辞典(東京堂出版)
日本歴史地名総覧(新人物往来社)、日本の姓氏と地名 (新人物往来社)
歴史と人物・江戸五百藩(中央公論新社)、歴史人・地名の歴史をたどる(ABCアーク) 
万有百科大事典・日本地理(小学館)、漢和