美作の庄屋巡り「黒田家」(宮部上)

kuroda29.jpg

津山市宮部上の黒田家について
 太田亮著「姓氏家系大辞典」第2巻(1963年初版、角川書店)によると、「美作の黒田氏」の項に、次の記述がある。
 「久米郡宮部上邑に黒田氏あり。前述高満の嫡孫右近大夫高政備前邑久郡福岡村に移り、其の三男源三郎定隆宇喜多家に仕ふ。その嫡孫定重に至って、天正七年(1579)五月、久米郡宮部に土着す。其の子忠朝より以降、或は中庄屋、または里正を勤むと云ふ。又英田郡山外野、倉敷等に黒田氏あり。」

kuroda30.jpgkuroda32.jpg

 この記述を基に、筆者は2004年6月19日にJR津山駅からレンタカーにて久米郡宮部の黒田家の存在を探索に行き、市立図書館、町の公民館・図書館で情報を得ながら、終に記述通りに黒田幸志氏宅を見出した。この黒田幸志氏は、始祖の黒田定隆から20代、宮部黒田家初代「定重」から18代目に当る。
 宮部黒田家は、代々この地にあり、菩提寺は近くの曹洞宗の清涼山「正覚寺」である。また、家紋は、隅立て四ツ目紋(男紋)と茗荷の花(女)である。四ツ目紋は近江源氏の佐々木氏族の紋である。又、氏神は滋賀県の日吉大社分霊の日吉神社といい、素性を示唆している。

kuroda26.jpgkurodaihai.jpg

 場所は、JR津山駅から車で約1時間足らずの所で、吉井川の支流のさらに上流に当り、田園の果てに位置している。居宅は山裾のやや小高い所にあり、石垣が目を付く。現当主の黒田幸志氏は華道・池坊生け花の教授で、「幸陽」という名を持つ。そのため、広い庭の樹木と花壇はよく手入れされており、四季を通じて生け花の素材に事欠かないという。

宮部黒田家に秘蔵されている系図の前文には、以下のような記述がある。

kuroda13.jpgkuroda14.jpg

「宇多天皇之皇子一品式部卿敦實親王始テ源ノ姓ヲ賜り其末孫皆宇多源氏ト称ス敦實親王ノ孫兵庫頭成頼始メテ武門ニ入江州蒲生郡佐々木ノ郷ニ居住セラル是佐々木ノ元祖ナリ成頼五代之後胤佐々木源三郎秀義其子定綱経高盛綱義情皆鎌倉右大将頼朝二仕へ世ニ勇名ヲ顕シテ是ヨリ子孫繁栄セリ佐々木太郎定綱五代之孫左衛門尉宗満江州伊香郡黒田邑ニ住シ始メテ佐々木黒田判官ト号ス宗満ヲ改メテ宗清ト号セラル是黒田氏之始祖ナリ宗清子ヲ黒田判官高満五代ノ嫡孫右近大夫高政故有テ備前邑久郡福岡ニ移リ住セラル其子下野守重隆播磨ニ移ラル訳有テ三男源三郎定隆福岡ニ残り宇喜多家ニ随ヒ代々戦功有トイエ共三代孫左衛門五郎定重老年ニ至リ浮田家ト不和之故アリ四男四郎忠朝等腹心ノ家来両人ヲ召連天正七卯五月智音ニ依テ美作国宮部ニ来リ時節ヲ見合ラル、内四郎忠朝故ハ武門ヲ不好田畑ヲ求テ百姓トナル 天正十二申年(1584)二月十日」

kuroda_bochi.jpgkuroda28.jpg

宮部に帰農した定重の祖、定隆は長船町福岡にある妙興寺の墓地に眠っていると思われる。

 「宮部黒田家」の系図によると、前文の前半は一般によく知られている「福岡黒田家」の系譜とほぼ同様な記述である。「長船黒田家」の黒田高政の三男黒田源三郎「定隆」は、宇喜多家の家来であり、世襲した三代の孫左衛門五郎「定重」の代に主家の宇喜多直家と不仲になり、黒田定重は辞して隠居するため、天正七年(1579)五月に四男の忠朝と二人の家来を連れて、吉井川の下流の福岡村から上流に位置する久米郡宮部へ移住し、その後忠朝の代に武士を廃して土着したと明記されている。系図やその他の記載にはないが、新田(2010)によると、「定隆」と三代「定重」の間に二代の「定継」の存在が知れる。また始祖の「定重」から七代目までの名字を「定重」としたが、八代目以降再び元の黒田と名乗った。(文:『長船黒田家の分流について 黒田一紀(千葉県習志野市秋津在住)』より一部抜粋)

kuroda1.jpgkuroda2.jpg

 黒田幸志さんからお聞きすると、「昔は貧乏すると、何度か、さやしをした。さやしとは、貧乏すると家のお宝を何回かに分けて売る。いついつ、さやしをするので来てくれと言ったら、昔の人はこの家には大体こんな宝があるだろうと分かっていたので人が寄ってきた。そうやって生活を凌いでいました。その後、家屋敷を整理してもっと奥へ引っ越したのですが、私の代で昭和51年に元の土地に家を新築し帰って来ました。その時に元の家にあった愛着のある襖や障子も持って帰ってきました。その襖に張り付けてあったのが放手形、引請手形だった。」そうです。その手形を額にして大切に飾っておられました。(撮影:2020年8月18日)


 今や先人たちが、安住の地として住み慣れた郷土も、最近は特に高齢化に伴い、日常生活に於いても様々な不便に直面して、人口減少が起こっていて寂しいかぎりである。小さな明りでもよい、この山里(地域)を守ってもらいたいと願わずにはいられません。 黒田幸志