津山洋学資料館冬季企画展 津山藩の絵師 鍬形家と洋学者

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津山藩の絵師 鍬形家と洋学者
森島中良、宇田川玄真、箕作阮甫、箕作秋坪、宇田川興斎
~鍬形蕙斎、赤子をめぐる洋学者たちの諸相~
会期:10月17日(土)~平成28年2月7日(日)
◆「江戸一目図」で名高い鍬形蕙斎(1764~1824)は、はじめ北尾政美の名で浮世絵師として人気を博し、1794(寛政6)年に31歳で津山藩の絵師として召し抱えられました。惠斎の画業への評価とともに特筆すべきなのが、文人や学者たちとの交流で、宇田川玄真や森島中良ら、洋学者たちとも交流した記録があります。
 さらに蕙斎の跡を継いだ赤子(1800~1855)は、1854(嘉永7)年のペリー再来に際し、藩命で洋学者の箕作秋坪、宇田川興斎とともに浦賀に偵察に赴きました。各地に伝来する黒船を描いた絵巻には、赤子が描いたものや、それらを写したものがあり、黒船をめぐる学者たちのネットワークが垣間見えてくるのです。
 本展では、津山藩の絵師を務めた鍬形家3代のうち、初代蕙斎と2代赤子について、洋学者たちとの交流という側面からご紹介します。(文:津山洋学資料館HPより

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津山洋学資料館の建物(2015年11月5日取材)
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来館者が熱心に説明を聞いておられました。


御用絵師蕙斎の誕生
 浮世絵師として活躍していた北尾政美が大きな転機を迎えたのは1794(寛政6)年、31歳の時でした。津山藩の5代藩主松平康哉によって、藩の御用絵師として登用されたのです。間もなく蕙斎と改号し、1797(寛政9)年には北尾から、母方の姓である鍬形に姓を改めました。
 江戸詰めで藩の絵師としての御用を務めるかたわら、絵手本『略画式』シリーズなどを刊行。1809(文化6)年には江戸の町を鳥瞰した「江戸一目図」を作成しました。
 1810(文化7)年には津山を訪れ、わずか10か月の滞在ではありましたが、前年火災で焼失した津山城本丸御殿の再建に関わる仕事を行っています。

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鍬形蕙斎筆(エレキテルの図)『紅毛雑話』     鍬形蕙斎が絵を描いた料理の本『料理通』

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大槻磐渓 撰文「箕作阮甫墓碑銘」


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蕙斎をめぐる人々
 蕙斎が、浮世絵師から藩のお抱え絵師へと異例の出世をとげた背景として指摘されているのが、蕙斎を取り巻く人間関係です。蕙斎は、名立たる戯作者たちに多くの挿絵を提供していました。その一人が、戯作者であり蘭学者でもあった森島中良です。
 森島中良は『解体新書』翻訳者の一人である桂川甫周の実弟で、平賀源内の弟子でもあります。中良を通じて、蕙斎は蘭学者たちとの交流を広げたと考えられます。
 蕙斎は、中良の著書『紅毛雑話』に挿絵を描いていますが、同書の跋文を書いたのが津山藩医宇田川玄随です。さらに玄随の養子となった玄真とは、文通などの交流をしていたことが記録されています。


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赤子、黒船を描く
 赤子の業績の中でも特に知られているのが、黒船を描いたペリー来航絵巻です。1853(嘉永6)年6月、アメリカ国書を携えて浦賀に来航したペリーは、翌年1月に返事を求めて再び来航しました。
 この時、津山藩は幕府の命を受けて高輪周辺の警固に出兵しています。その一方で、独自に情報を収集するため、藩医で蘭学者の箕作秋坪と宇田川興斎、そして赤子に偵察を命じました。
 赤子は秋坪らとともに浦賀や神奈川へ赴き、黒船やアメリカ兵たちの様子を描き残しました。絵によって、より正確に黒船の情報を伝える役割を果たしたのでした。


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ペリー来航を描く 「金海奇観」(複製) 1854(嘉永7)年
大槻磐渓 編・鍬形赤子ほか 画(原資料は早稲田大学図書館所蔵)
 乾坤2巻からなり、乾巻冒頭の河田廸斎の題字に続いてある黒船の遠景図は、赤子の手によるものと考えられています。坤巻のペリーの肖像画は関藍梁と赤子が描いたものです。

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江戸湾御固図(ペリー来航の時の江戸湾警備図) 


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鍬形蕙斎 筆『蜘蛛と鳥』               鍬形蕙斎 筆『魚貝譜』


◆主な展示資料...森島中良著『紅毛雑話』(鍬形蕙斎が挿絵を提供)、鍬形蕙斎『魚貝譜』、鍬形蕙斎筆「津山景観図屏風」(展示期間:10 月17日(土)~11月15日(日))、同「菊図」(展示期間:11月17日(火)~12月20日(日))、「ペリー来航絵巻」、「金海奇観」など約25 点 (文:津山洋学資料館説明より)