丹後山の石仏ーおこり石伝承ー

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 日本に古くからある病気に「おこり(瘧)」という病気がありました。これは古代から知られており、「わらはやみ」とか「おこりやまい」などと呼ばれていました。定期的に悪寒・発熱などが起こる病気で、現在ではマラリヤ性の熱病と考えられています。
 このおこりを治す方法というのがさまざまに伝えられていて、たとえば石のコケやリンドウの花を煎じて飲むなどという療法が、伝承として残されています。また、こうした民間療法的なもののほかに、おこり石というものもありました。おこり石とは、霊験のある石に祈願しておこりを治すという呪術的な治療法です。これは各地に残されていますが、その一種と思われるものが丹後山にあります。
 それは石仏と呼ばれているものですが、今では訪れる人もなく、付近は荒れ放題になっていて、クマザサのやぶの端で斜めに倒れかかっています。この石仏は、他の地域でも見られるような地蔵などではなく、縦横一メートル五十センチほどの平らな石で、表に銘が彫られていますが正確には読み取れません。(上記地図写真:津山郷土博物館より)

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                        (↑ 写真:津山郷土博物館より)

 この石仏も、かつてはかなり知られていたようすで、嘉永七年(一八五四)の城下町絵図にも記載されています。そこでは大きな木の下に石の姿が描かれ「石仏」と注記してあるだけなのですが、文化十二年(一八一五)の『東作誌』においてはやや詳細に記されています。
 林田郷の古跡の部に載せられているのですが、このことからしてもそれ以前のかなり古くから知られていたことは明らかです。そこには「石仏平」という地名として載せられていて「大隅宮東の山の嶺に石仏あり。瘧を病むもの此石仏を荒縄にて縛り、瘧を落とし玉つらば縄解きて免すべし、とて戻るに必其病癒ゆ。其時縄を解て帰る。此山野狐の住所といふ」という説明が付けられています。
 この丹後山の石仏は、平らな大きな石に縄を縛りつけて帰るのですが、他の地域では、石の地蔵を縄で縛ったり、履いて行ったぞうりやわらじを五輪塔に掛けて帰るとかの風習が伝えられていて、多少の違いはありますが基本は同じといえるでしょう。
 この伝承がいつごろ消えてしまったのか分かりません。大正十五年の『津山商工案内』では歴史的な伝承として石仏を紹介していますが、その中で『東作誌』の説明を引用しており、もうすでに地元の地域にも独特の伝承はなかったものと思われます。現在では、石仏という呼び名は残っているものの、その由来については聞き知っている人も少ないようです。(文:津山市発行『津山学ことはじめ』より転載)

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大隅神社の東の筋を登って行くそうです。現在は残念ながらこれ以上は草木が茂っていて登れないそうです。
(2018年9月26日撮影)